THROUGH THE LOOKING-GLASS AND WHAT ALICE FOUND THERE

 

『鏡の国のアリス』というタイトルもすでに定訳だと思うが、実際にアリスが旅するのは「鏡の中のチェスの国」と言った方がしっくりくる。

 原典にはタイトルにも本文中にも「〜の国」といった表現はなく、近いのは9章と12章に出てくる the Looking-glass world ぐらいだが、日本語以外の翻訳でも、タイトルや本文中で「〜の国」といった表現を使っているところはあるだろうか。

 はじめに翻訳で読んだ時は、もっと鏡だらけのキラキラした国なのかと思っていたら、森ばかりだったのが意外だったりした。

 ただし「鏡の国」という表現は「鏡の中の国」というだけではなく「鏡写しの世界」という意味も持たせているし、『鏡の国のアリス』というタイトルは、全体に品もあって座りも良く、『不思議の国のアリス』とも対になる、とても良いタイトルだ。

 作品中には前後左右や因果の逆転などといったことが、ただ反対のこととしてだけでなく、現実世界のカリカチュアとしても描かれていて、まさに鏡写し。「フシギの国」のナンセンスに現実が見えるのと同じだ。

 ただ、個人的には、ハチャメチャなところもある作品のタイトルとしては落ち着きすぎて格調が高すぎ(それはいいことかもしれないが)、静的にすぎる気もする。そんなわけで、上記の良さはすべてなくなるが、ちょっとだけ動きを感じさせたいと思い、「向こうの」というタイトルにした。

 

 

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