JABBERWOCKY

 

JABBERWOCKY

 

'Twas brillig, and the slithy toves

  Did gyre and gimble in the wabe;

 All mimsy were the borogoves,

   And the mome raths outgrabe.

 

“Beware the Jabberwock, my son!

  The jaws that bite, the claws that catch!

 Beware the Jubjub bird, and shun

   The frumious Bandersnatch!”

 

 He took his vorpal sword in hand:

  Long time the manxome foe he sought―

 So rested he by the Tumtum tree,

   And stood awhile in thought.

 

 And as in uffish thought he stood,

  The Jabberwock, with eyes of flame,

 Came whiffling through the tulgey wood,

  And burbled as it came!

 

 One, two! One, two! And through and through

  The vorpal blade went snicker-snack!

 He left it dead, and with its head

   He went galumphing back.

 

“And hast thou slain the Jabberwock?

  Come to my arms, my beamish boy!

 O frabjous day! Callooh! Callay!”

   He chortled in his joy.

 

'Twas brillig, and the slithy toves

  Did gyre and gimble in the wabe;

 All mimsy were the borogoves,

   And the mome raths outgrabe.

 

 

 1897年版のキャロルの序文によると、slithy は sly, the と二語のように、gyre と gimble の g は硬音で、rath は bath と韻を踏むように発音するとのこと。

 

 キャロル自身が二十三歳の時に手書きの家庭雑誌『ミッシュマッシュ』に載せたものがもとになっている。

 そこではハンプティとは違った解説を載せていて、以下がその内容。

(『』は拙訳。〈〉は辞書によるもの。〈?〉は辞書に見つからなかったことを示している)

 

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 BRYLLYG『ヤキの刻』(BRYL〈?〉又はBROIL〈(肉、魚などをオーブンで)焼く〉という動詞から派生した),「夕食の準備をする時刻。すなわち、昼の終わり」

 

 SLYTHY『ぬるしやか』(SLIMY〈ぬるぬるした〉と LITHE〈(体の動きが)しなやかな〉の複合語).「なめらかで活発な」

 

 TOVE『トーヴ』. 穴熊の一種。なめらかな白い毛、長い後ろ脚、鹿のような短い角を持ち、主としてチーズを食す。

 

 GYRE『ぢゃいる』(「犬」を意味する GYAOUR〈?〉又はGIAOUR〈?/トルコ語では「非イスラム教徒」の意味あり〉から派生した)動詞. 犬のように引っ掻く。

 

 GYMBLE『ぢきりる』(GIMBLET〈ねじ錐〉から). 何かにねじ切り穴をあける。

 

 WABE『ほうびろ』(SWAB〈(水分などを)拭き取る〉又は SOAK〈びしょ濡れにする〉という動詞から派生した).「丘の中腹」(雨でびっしょり濡れていることから)

 

 MIMSY『うすぼらし』(MIMSERABLE〈?〉と MISERABLE〈みすぼらしい〉から).「悲しい」

 

 BOROGOVE『ボロゴーヴ』. 絶滅したオウムの一種。翼が無く、嘴が上向きに反っていて、日時計の根本に巣を作る。子牛の肉を主食とする。

 

 MOME『かから』(SOLEMOME〈?〉や SOLEMONE〈?〉や SOLEMN〈いかめしい〉より).「真剣な、不安そうな」

 

 RATH『ラス』. 陸生亀の一種。直立した頭。鮫のような口。膝で歩くように外に曲がった前脚。なめらかな緑色の体。燕と牡蠣を主食とする。

 

 OUTGRABE『うなめずりたり』. 動詞、OUTGRIBE『うなめずる』〈?〉の過去時制。(「shriek〈金切り声を上げる〉」と「creak〈キーキーきしむ〉」の語源である古い動詞、GRIKE〈?/名詞では「(岩の)空隙、すきま」の意味あり〉又はSHRIKE〈?/名詞では「百舌」の意味あり〉と関係あり).「キーキー鳴いた」

 

 そして直訳すると以下のようなものだとしている。

 

午後の4時だった。そして身のこなしのしなやかでぬるりとしたトーヴらが

 日時計のまわりの芝ををぐるぐると回り、ねじれた穴を掘った

すっかり影が薄くみすぼらしいのはボロゴーヴどもだ

  そして不安げな陸亀たちがキーキー鳴いた

 

『鏡』の中の「ジャバウォッキー」は、一見(一聴)すると普通の詩だが、上記のようなキャロルの作った語が全編にわたってちりばめられている。

 拙訳は分かりやす過ぎるかもしれないが、原文もネイティブにはなんとなく分かる感じのものではないかという気がする。

 子供なら、まだちゃんと知らない言葉があるだけだと思うかもしれない。

 

 矢川澄子氏の「ことしえる剣」という訳はマーチン・ガードナーの注釈に引用されている verbal(言葉)と gospel(教え)の合成というアイデア(拙訳もここから)に「事を成し得る」の意味を重ねたものだろう。

 

 キャロル語を訳さずに全体を訳してみると、

 

ぶりりぐなり、そしてすらいじいトーヴらが

 うえいぶにてがいる、またぎんぶる

すべてみむじいは、ボロゴーヴども

  そしてもうむラスらが、あうとぐれいぶる

 

ジャバウォックに用心せよ、我が息子よ!

 噛みつく顎、掴まえる鉤爪!

ジャブジャブ鳥に用心せよ、そして避けよ

  ふるみえすバンダスナッチを!

 

彼は己がぼおぽる剣を手に取りたり

 長の時、まんくさむ敵を彼は探し求め――

そしてタムタムの樹のかたわらにて休み

  しばし立ち、思いにふける

 

そして、あふいしゅなる思いで彼の立ちたりし時

 かのジャバウォック、炎の両の眼を持ちて

たるじい森を抜け、ういふりんぐりて現れる

  そして迫りつつ、ばあぶるどる!

 

一刀、二刀! 一刀、二刀! そして貫きて貫き

 かのぼおぽる刃がすにか、すなくに及ぶ!

彼は骸となりし残し、その首を獲りたり

  彼はがらんふいんぐりて帰りゆく

 

では汝はジャバウォックを討ち取りしか?

 我が腕に来たれ、我がびいみしゅなる男子よ!

嗚呼、ふらぶじゅす日じゃ! かるう! かれい!

  彼は己が喜びにちょうとるどる

 

ぶりりぐなり、そしてすらいじいトーヴらが

 うえいぶにてがいる、またぎんぶる

すべてみむじいは、ボロゴーヴども

  そしてもうむラスらが、あうとぐれいぶる

 

 こちらの方がナンセンス度が高まるような気もする。

 

 ディズニーーアニメの中ではチェシャ猫が歌っている。

 これは制作当時、けっこう勇気がいったのではないかと思う。

 そのメロディーに合うように訳してみると、

 

「ヤキの刻 ぬるしやかトーヴ

 ぢゃいってぢきりる ほうびろで

 うすぼらしい それはボロゴーヴ

 かからラスが うなめず〜る!」

 

 こんな感じかな。

 公開当時、こういったふうな訳だったら、何が何だか分からなかっただろう。

 分からなくていいものではあるのだが、「この俺は〜」といった歌に変えられたのは妥当だったと思える。

 今でもちょっと難しそうだ。

 

「ジャバウォッキー」にテニエルは挿絵をつけているが、これはアリスの読んだ本にこの挿絵があったという意味ではないし、アリスの頭に浮かんだ情景というわけでもない。

『鏡』という作品の作中作としての「ジャバウォッキー」につけられた挿絵だ。

 そんなわけで挿絵には詩の中の勇者としてアリスが登場している。

 作中作の登場人物を本編の登場人物が演じてみせるのはマンガやアニメではおなじみの手法だが、小説や物語の中の挿絵ではあまり見ない気がする。発表当時はほかにあったのだろうか。

 テニエルはもともと漫画家なのでこういう発想ができたのだろう。それともキャロルが指示したのだろうか。

 この手法は『フシギ』にはなかったものだが(もともと『フシギ』には詩の挿絵としては「ロブスター」しか描かれていない)、『鏡』ではハンプティ・ダンプティや白のナイトが詠む詩の挿絵でも繰り返されている。

 映画『アリス・イン・ワンダーランド』のストーリーは、まず、この「ジャバウォッキー」の挿絵から発想したのかな。

 予言の成就というのはストーリーの定石だが、『鏡』では赤のクイーンの説明通りに物事が進むし、それぞれの場所ではマザー・グースの詩の通りの出来事が起こる。

『フシギ』でも言葉が先にあって、それが実体化する形でキャラクターができあがっていたし、マザー・グースの詩を起訴状として裁判が開かれていたが、『鏡』ではもっと「〜の通り」が徹底しているようだ。

 

 9章に、暗唱してもらった詩が皆 fish に関係していたというセリフがあるが、「ジャバウォッキー」は暗唱してもらったわけではないので関係ないかと言うと、4連目の uffish に fish が含まれていたりする。

 訳ではジャバウオッキーを「蛇馬魚鬼」(高山宏)、「邪馬魚狗記」(芦田川祐子)、「邪罵魚鬼」(笠井勝子)などとして「魚」をもぐりこませたものもある。

 

 

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