JABBERWOCKY
JABBERWOCKY
1897年版のキャロルの序文によると、slithy は sly, the と二語のように、gyre と gimble の g は硬音で、rath は bath と韻を踏むように発音するとのこと。
キャロル自身が二十三歳の時に手書きの家庭雑誌『ミッシュマッシュ』に載せたものがもとになっている。 そこではハンプティとは違った解説を載せていて、以下がその内容。 (『』は拙訳。〈〉は辞書によるもの。〈?〉は辞書に見つからなかったことを示している)
BRYLLYG『ヤキの刻』(BRYL〈?〉又はBROIL〈(肉、魚などをオーブンで)焼く〉という動詞から派生した),「夕食の準備をする時刻。すなわち、昼の終わり」
SLYTHY『ぬるしやか』(SLIMY〈ぬるぬるした〉と LITHE〈(体の動きが)しなやかな〉の複合語).「なめらかで活発な」
TOVE『トーヴ』. 穴熊の一種。なめらかな白い毛、長い後ろ脚、鹿のような短い角を持ち、主としてチーズを食す。
GYRE『ぢゃいる』(「犬」を意味する GYAOUR〈?〉又はGIAOUR〈?/トルコ語では「非イスラム教徒」の意味あり〉から派生した)動詞. 犬のように引っ掻く。
GYMBLE『ぢきりる』(GIMBLET〈ねじ錐〉から). 何かにねじ切り穴をあける。
WABE『ほうびろ』(SWAB〈(水分などを)拭き取る〉又は SOAK〈びしょ濡れにする〉という動詞から派生した).「丘の中腹」(雨でびっしょり濡れていることから)
MIMSY『うすぼらし』(MIMSERABLE〈?〉と MISERABLE〈みすぼらしい〉から).「悲しい」
BOROGOVE『ボロゴーヴ』. 絶滅したオウムの一種。翼が無く、嘴が上向きに反っていて、日時計の根本に巣を作る。子牛の肉を主食とする。
MOME『かから』(SOLEMOME〈?〉や SOLEMONE〈?〉や SOLEMN〈いかめしい〉より).「真剣な、不安そうな」
RATH『ラス』. 陸生亀の一種。直立した頭。鮫のような口。膝で歩くように外に曲がった前脚。なめらかな緑色の体。燕と牡蠣を主食とする。
OUTGRABE『うなめずりたり』. 動詞、OUTGRIBE『うなめずる』〈?〉の過去時制。(「shriek〈金切り声を上げる〉」と「creak〈キーキーきしむ〉」の語源である古い動詞、GRIKE〈?/名詞では「(岩の)空隙、すきま」の意味あり〉又はSHRIKE〈?/名詞では「百舌」の意味あり〉と関係あり).「キーキー鳴いた」
そして直訳すると以下のようなものだとしている。
『鏡』の中の「ジャバウォッキー」は、一見(一聴)すると普通の詩だが、上記のようなキャロルの作った語が全編にわたってちりばめられている。 拙訳は分かりやす過ぎるかもしれないが、原文もネイティブにはなんとなく分かる感じのものではないかという気がする。 子供なら、まだちゃんと知らない言葉があるだけだと思うかもしれない。
矢川澄子氏の「ことしえる剣」という訳はマーチン・ガードナーの注釈に引用されている verbal(言葉)と gospel(教え)の合成というアイデア(拙訳もここから)に「事を成し得る」の意味を重ねたものだろう。
キャロル語を訳さずに全体を訳してみると、
こちらの方がナンセンス度が高まるような気もする。
ディズニーーアニメの中ではチェシャ猫が歌っている。 これは制作当時、けっこう勇気がいったのではないかと思う。 そのメロディーに合うように訳してみると、
こんな感じかな。 公開当時、こういったふうな訳だったら、何が何だか分からなかっただろう。 分からなくていいものではあるのだが、「この俺は〜」といった歌に変えられたのは妥当だったと思える。 今でもちょっと難しそうだ。
「ジャバウォッキー」にテニエルは挿絵をつけているが、これはアリスの読んだ本にこの挿絵があったという意味ではないし、アリスの頭に浮かんだ情景というわけでもない。 『鏡』という作品の作中作としての「ジャバウォッキー」につけられた挿絵だ。 そんなわけで挿絵には詩の中の勇者としてアリスが登場している。 作中作の登場人物を本編の登場人物が演じてみせるのはマンガやアニメではおなじみの手法だが、小説や物語の中の挿絵ではあまり見ない気がする。発表当時はほかにあったのだろうか。 テニエルはもともと漫画家なのでこういう発想ができたのだろう。それともキャロルが指示したのだろうか。 この手法は『フシギ』にはなかったものだが(もともと『フシギ』には詩の挿絵としては「ロブスター」しか描かれていない)、『鏡』ではハンプティ・ダンプティや白のナイトが詠む詩の挿絵でも繰り返されている。 映画『アリス・イン・ワンダーランド』のストーリーは、まず、この「ジャバウォッキー」の挿絵から発想したのかな。 予言の成就というのはストーリーの定石だが、『鏡』では赤のクイーンの説明通りに物事が進むし、それぞれの場所ではマザー・グースの詩の通りの出来事が起こる。 『フシギ』でも言葉が先にあって、それが実体化する形でキャラクターができあがっていたし、マザー・グースの詩を起訴状として裁判が開かれていたが、『鏡』ではもっと「〜の通り」が徹底しているようだ。
9章に、暗唱してもらった詩が皆 fish に関係していたというセリフがあるが、「ジャバウォッキー」は暗唱してもらったわけではないので関係ないかと言うと、4連目の uffish に fish が含まれていたりする。 訳ではジャバウオッキーを「蛇馬魚鬼」(高山宏)、「邪馬魚狗記」(芦田川祐子)、「邪罵魚鬼」(笠井勝子)などとして「魚」をもぐりこませたものもある。
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