CHAPTER 7. THE LION AND UNICORN

 

�� She thought that in all her life she had never seen soldiers so uncertain on their feet:

 

 マザー・グースで王様の兵隊全員でもハンプティ・ダンプティを助けられないのは、答えがたまごで割れてしまうからだが、ここでは兵隊たちが頼りなくて助けられないようだ。

 

�◆�I see nobody on the road,”said Alice.

“I only wish I had such eyes,”the King remarked in a fretful tone.“To be able to see Nobody! And at that distance too! Why, it's as much as I can do to see real people, by this light!”

 

 Nobody はつまり0人ということだが、『少女への手紙』(高橋康也・高橋迪訳)によると、ヨーロッパの民話に登場する、姿の見えない人物(?)のことでもあるそうだ。

 Nobody=body(体)がない ←→ real people=real(実体のある)people

 また、by this light: by God's light: by this hat などは、誓って、全く、確かに、という意味があるそうだ(英辞郎)。

 

��“Not at all,”said the King.“He's an Anglo-Saxon Messenger―and those are Anglo-Saxon attitudes. He only does them when he's happy. His name is Haigha.”(He pronounced it so as to rhyme with“mayor.”)

[…]

“The other Messenger's called Hatta. I must have two, you know―to come and go. One to come, and one to go.”

 

 Anglo-Saxon はアングロ・サクソン人のことだが、言語学では old English「古英語」を意味するので、Haigha も Hatta もそれぞれ Hare と Hatter の古英語風の綴りになっている。要するに、『フシギ』にも登場した(三月)ウサギと帽子屋だ。

 Haigha は mayor(「市長」発音は「メアー」)と韻を踏む、ということなので、つまり発音は「ヘアー」で Hare と同じ。

 Hatta もおそらくHatter と同じ発音で「ハッター」。

 発音は同じで綴りが違うだけ、ということからすると、柳瀬尚紀氏の「卯茶儀」や「某氏也」などがその意味では正当な訳し方とも言える。

 古い綴り方である、ということから、日本語でのカナ表示を元の漢字で表すと、うさぎ→宇左幾、ウサギ→宇散幾、ぼうしや→保宇之也、保宇之也、などとなる(もちろん「兎」「帽子屋」という漢字があるわけだが)。

「ウサキチ」は矢川澄子氏の訳から。

「ボゥシャ」は、山形浩生「ボウシャ」、脇朋子「ボーシャ」などから。

 行きに一人と帰りに一人。一人が密偵であればつじつまが合うかな。

 

�ぁ屮Ε泪乾筌掘廚鰐霎鄒〇匯瓩量�からだが、これがシロツメクサ(クローバー)の俗称というのはそれまで知らなかった。

 牧草でもあり、干し草にもするし、兎も食べるそうだ。

 

�� Which Alice did not venture to deny.

 

『フシギ』での経験からか、『鏡』のアリスには言い争いを避ける傾向が見られるように思う。

 

�Α�Who did you pass on the road?”the King went on, holding out his hand to the Messenger for some more hay.

“Nobody,”said the Messenger.

“Quite right,”said the King:“this young lady saw him too. So of course Nobody walks slower than you.”

“I do my best,”the Messenger said in a sulky tone.“I'm sure nobody walks much faster than I do!”

“He ca'n't do that,” said the King,“or else he'd have been here first.

 

 nobody を「だれも」と訳している例はほかにもあって、稲木昭子、沖田知子氏が『謎解き「アリス物語」』の中で「だれも」と「ダレモ」を使い分けて解説しているが、脇朋子氏の「どうやら、ダレモがおまえより足が速いとは言えんようじゃな。」は、ちょっと分かりにくく混乱する。また、山形浩生氏の「だがもちろんそのだれもが、おまえよりは歩くのが遅いはずじゃが」も、使者が怒る理由になっているように見えず、やはり分かりにくい。佐野真奈美氏も Haigha を怒らせる展開には持ちこめていない。拙訳はどうだろうか。

 安井泉氏の「皆無」が、はじめのアリスの発言としてはやや不自然であるものの、特筆すべきものだと思う。

 

�А�If you do such a thing again, I'll have you buttered!

 

「バター漬け」は石川澄子氏の訳から。

 氏の注釈に、「昔は各家庭で漬物桶のような大きな容器にバタを造った。」とある。

 

�┘罐縫魁璽鵝憤豎兔叩砲蓮岾曚烹泳椶里佑犬譴審僂藩瑳�の足とライオンの尾を持つ馬に似た伝説上の動物」ということで、単なる「角のある白馬」の形ではないそうだ。

 また、見た目の美しさにも寄らず獰猛だとか。

 

��“Speak, ca'n't you!”Haigha cried impatiently. But Hatta only munched away, and drank some more tea.

“Speak, wo'n't you!”cried the King.“How are they getting on with the fight?”

 

 この、Hatta に対する Haigha とキングの台詞は、きつい言葉での命令に訳しているものがほとんどだが、『アリスの英語2』(p. 237)によれば、キングの言い方などは「いんぎん無礼な響きを持つ」とのことだ。

 どちらも形はいわゆる命令形の付加疑問文で、ただ ? ではなく ! なので、丁寧なのは言葉遣いだけで、語調(つまりは本心)はそうではない、ということだろう。

 

��“Ten minutes allowed for refreshments!”

 

 キングはライオンとユニコーンの争いに10分の休憩を宣告するが、refreshments が「休憩」だけでなく「おやつ」も意味するので、マザー・グースの詩の通りにパンやケーキをあげるという流れになる。もぐもぐタイムだ。

 

��“This is a child!”Haigha replied eagerly, coming in front of Alice to introduce her, and spreading out both his hands towards her in an Anglo-Saxon attitude.“We only found it to-day. It's as large as life, and twice as natural!”

“I always thought they were fabulous monsters!”said the Unicorn.

 

・large as life : 実物大の(life-size), (驚きをあらわして)実際に, 紛れもなく本人が, 正真正銘の(後にand twice as natural(or natured)を付けることもある)

・large as life and twice as natural : (1)実物大で, (2)正真正銘の, まごうかたなき人, 物そのもの

と辞書にある。

 肖像画などに対して使うフレーズが元だそうだ。

 ナンセンスと言うより大げさ表現だろう。

 この表現について、斉藤悦子、川谷旺未両氏による、「こんな僕の日本人見聞録」―ハーパーズ・ウィークリー紙1860年、5月26日号に掲載された、遣米使節団出迎え騒動記の翻訳と注釈―という、〈架空の「田舎者」的人物がなぜか歴史的瞬間に立ち会って親戚に見聞録の手紙を送る、というスタイルのコラム〉の資料紹介が、「泉女子大学人文科学研究所紀要 第38号 2017年3月」にあり、以下に抜粋する(両氏によって標準英語に直されたもので、訳も両氏による)。

 

 HONORED UNCLE, - Here I am again, large as life, and twice as natural, and hope these few lines will find you enjoying the same blessing.

(訳)親愛なる伯父上、やあ、僕です。紛れもなくありのままの僕ですよ。伯父さんも僕と同じように楽しく過ごしているといいのですが。)

 

 That picture will save me a lot of explanation, for all is there, as large as life and twice as natural.

(訳)その絵は説明をしなくとも多くを語ってくれます。本物そっくりですから。

 

 そして注の3に〈“large as life and twice as natural”は『鏡の国のアリス』に登場することで有名な一節で、“quite as natural”のルイス・キャロルによるアレンジである、とする説があったが、OEDには1835年に初出例があり、本記事からも、キャロルの使用以前に、アメリカですでによく使われていた慣用句であることがわかる。〉とある。

 ところで、なぜユニコーンやライオンだけが子供を伝説上の怪物と思っていたのだろう。

 その場合リリーの立場は?

 そしてなぜ Haigha は、自分は驚かなかったのにユニコーンには特別であることがすぐに分かったのだろう。

 

��“Haigha took a large cake out of the bag, and gave it to Alice to hold, while he got out a dish and carving-knife.”

 

 ケーキだけ先に出してアリスに持たせたように読め、宗方あゆむ氏が順序を逆にしているのを除けば、すべての訳でそうなっているようだし、BBC制作のドラマでも実際にそうやっていたが、それだと変なので、同時に出していた、つまりテニエルの挿絵にあるように皿に載せている状態で出したのではないかと思ったが、どうだろう。

 

�� The King was evidently very uncomfortable at having to sit down between the two great creatures; but there was no other place for him.

 

 白のキングが二人にはさまれて座るシーンで、「ほかに場所がない」のはどうしてだろうと思ったが、英国の国章が「ライオンとユニコーンに左右をはさまれている形」であることによるのだろう。

 

��“I say, this isn't fair!”cried the Unicorn, as Alice sat with the knife in her hand, very much puzzled how to begin.“The Monster has given the Lion twice as much as me!”

 

 the lion's share(いちばん大きな分け前/甘い汁)という言葉の通りになっているが、このライオンはイソップ物語のライオンのように強欲ではなく、アリスの答えによっては分けてくれそうだ。でも、鳴り始めた太鼓のせいでそれも駄目になる。

 ところで結局、アリスは配ったあと切っていないのだが……?

 

��“If that doesn't‘drum them out of town,' ”she thought to herself,“nothing ever will!”

 

 マザー・グースの詩、The Lion And The Unicorn の中の drummed them out of town は「町から追放する」の意味の比喩表現だが、それ(drum「太鼓を叩く」)が文字通りに行われるわけだ。

 

 

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