CHAPTER 8. THE QUEEN'S CROQUET-GROUND

 

�� …the roses growing on it were white, but there were three gardeners at it, busily painting them red.

 

 庭師たちがスペードであることは本文には書かれていないが、spade は鋤のことだし、『地下』のキャロル自身の挿絵でもスペードなので、これは間違いのないところだ。

 岩崎民平氏が庭師たちの名前を二助、五助、七助としているのは「鋤」から金偏を取ったのだそうだ。

 ディズニーのアニメーションではトランプのマークにキャロルが施したような意味を持たせてはいないようで、庭師たちはクラブになっているし、数字も違う。

 

 また、赤は意外に明るい色で、白黒写真だとかなり白っぽい灰色に写るのを思い出した。

 

�◆�That's none of your business, Two!”said Seven.

 “Yes, It is his business!”said Five.

 

 この his は Two のことと捉えている訳と、Seven のことと捉えている訳があるが、別宮貞徳氏の『「不思議の国のアリス」を英語で読む』には、これは Seven のことで、his business というのは Sevenの責任だ、ということだとあった。

 

�� …and, if the Queen was to find it out, we should all have our heads cut off, you know.

 

 ポーカー用語にカットオフというのがあるが、特に関係ないか。

 もともとトランプは切られるものではあるが。

 絵札であれば上下に頭が2つあるから(ダブルヘッドと言うそうだ)片方切られても平気かも。

 もっとも、あとで登場するグリフォンによれば実際には刑は執行されないのだそうだが。

 

�� First came ten soldiers carrying clubs: […] next the ten courtiers: these were ornamented all over with diamonds, […] After these came the royal children: there were ten of them, […] they were all ornamented whith hearts. Next came the guests, mostly Kings and Queens, […] Then followed the Knave of Hearts, […] and, last of all this grand procession, came THE KING AND THE QUEEN OF HEARTS.

 

 先のスペードの庭師に続いて、クラブ(クローバー)が兵士、ダイヤが廷臣、ハートが子供、そして絵札はそれぞれネイヴ(ジャック)が召使いで、キングとクイーンが王と女王(または王妃)になっている。そしてこの国の王と女王はハートだから、来賓の王と女王と召使いたちが他のマークの絵札ということになる。

 そうすると、スペードやクラブやダイヤの王家の庭師や兵士や廷臣や子供たちはトランプ一セットに含まれまないのかな、などと思った。ハートのクイーンは怖いばかりの印象が強いが、けっこうな子だくさんでもある。

 また、王様がいるのだから、クイーンを女王様とするのは理屈ではおかしく、王妃様とするべきかもしれない。ただ、不思議の国の常識はどうだか分からないし(半分冗談)、私自身は特に違和感を感じず、その態度にはふさわしい気もする。

 とは言え、「女王様」とするといかにも暴君だが、「王妃様」なら、わがままで残酷なおきさき様、とやっていることは同じでもちょっと可愛げが出てくるように思えるのは気のせいだろうか。

 また、女王なら Queen で the は付かないとか、王妃なら尊称は Your Majesty ではなく Your Royal Highness だという記述も見かけるが、どうなんだろう。

 

 ところで、「様」は敬称なのに、「王」にしろ「女王」にしろ、付けない方がより威厳を感じる(付けた方が可愛げがあるように感じる)のはなぜだろう?

 

�� When the procession came opposite to Alice, they all stopped and looked at her, and the Queen said, severely,“Who is this?”

 

 行列は長いものだし、白ウサギはアリスの前を通り過ぎていってしまっているので、これはおかしな表現に思える。

 行列の最後尾のキングとクイーンが正面に来たとするしかないだろう。

『地下』のキャロル自身の挿絵でもそう描かれているし。

 

�Α�Why, they're only a pack of cards, after all. I needn't be afraid of them!”

 […]

 “How should I know?”said Alice, surprised at her own courage.“It's no business of mine.”

 

 アリスは実際に女王様に会う前からいい印象を持っていなかったようだ。

 帽子屋が歌が下手なだけで死刑を命じられたことや、庭師たちがバラを植え間違えただけで死刑になるのを恐れているという話を聞いたせいだろう。

 それでも How should I know? というのは普通に考えて女王様に向かって言うには失礼が過ぎる言葉のようだ。

 もともと女王様に反感を持っていた上に、ただのトランプだと思ったことで言い過ぎることになったとも思えるが、I don't know. と言うと嘘になるので(庭師だということを知っているので)そういう言い方になってしまったのだろう。

 ところでアリスは庭師たちをかばってもいるわけだが、「ただのトランプ一組」というのはその庭師たちも含まれているので、そこにアリス自身が気づいていないちぐはぐさがある。

 また、兵士、廷臣、子供たち、お客様、召使、王様と女王様、とそれぞれちゃんと紹介しておいて、そのくせ結局アリスに「ただのトランプ一組」と言わせているのが面白い。

 

�А�That's right!”shouted the Queen.“Can you play croquet?”

 The soldiers were silent, and looked at Alice, as the question was evidently meant for her.

 “Yes!”shouted Alice.

 

 女王様はどうしてアリスをクロッケーに誘う気になったんだろう。自分に向かって言い返してきたアリスに一目置いたのかもしれないし、子供を手なずけようとしたのかもしれない。それとも単にアリスをどう扱うか量り兼ねてのことだろうか。女王様はあまりリアルなキャラクターではないので、心中推し量るのは困難だが、いずれにしてもアリスはやや特別扱いされることになったようだ。

 これでチェシャ猫の言った通りになるわけだが、ひょっとしてチェシャ猫が姿を消したまま女王様に何事か吹き込んだのだろうか、などとも想像した。

 ディズニーのアニメーションでは女王様が自分ではクロッケーを得意なつもりでいるので、その優越感からのお誘いとなっている。

 

�─�It's―it's a very fine day!”said a timid voice at her side.

 

 地下であるとすると素直に「天気」とも訳しにくい(日和でもたいして違わないが)。とは言えフシギの国にも空はありそうだ。

 天候があるかは不明だし、明るさが何によってもたらされているのかも不明だが、むしろ「天気」とした方がナンセンス度が高まっていいかもしれない。

 9章では日陰(shade)という言葉が出てくる。

 

��“She boxed yhe Queen's ears―”the Rabbit began.

 […]

 “The Queen will hear you! You see she came rather late, and the Queen said―”

 “Get to your places!”shouted the Queen in a voice of thunder,…

 

 boxed ears は、ひっぱたいたという意味だが、トランプなので、箱に詰めることとかけているんじゃないだろうかと思った。9章での女王様に対する怯えようを見ると侯爵夫人の行動が大胆に過ぎるように思ったからだ。だが、テニエルが侯爵夫人を描くにあたって参考にしたと考えられている絵画、『醜女の肖像』のモデルと言われているのがマルガレーテ公爵夫人で、その綽名である、マウルタッシュ(Maultasche) に「醜女」の意味と「平手打ち」の意味があるそうで、綽名は本来後者の方であったらしいが(参照・ウィキペディア)、キャロルもそれらを念頭に置いて侯爵夫人のキャラクターを創造したのなら、容姿に前者を、行動に後者を当てはめたのかもしれない。

「箱詰め」が頭にあったとしても(なかったかも。他の章にも出てくる表現だし)偶然的な面白さ程度にしか考えていなかったかもしれない。

 それでもどうしてそんな行動に及んだのかと言う疑問は残る。

 どうやら女王様に何か言われたらしいのだが、ウサギが説明しようとした時に当の女王様の声がかぶさって中断されてしまう。

 Get to your places! がその声だが、もしかしたらこのセリフが説明にもなっているんじゃないだろうか。

 つまり(全然自信がないが)、その前のウサギのセリフ、and the Qeen said―― とつなげると、女王様が侯爵夫人に「家に帰れ」と言ったからだととれるジョークなんじゃないだろうか。

 考え過ぎと言うか、考え足らずかもしれないが、どうなんだろう。

 また、9章でアリスが言うように、コショーのせいもあったのかもしれない。アリスに対する態度が大甘なものに変わるのはコショーの影響が抜けたからで、また、アリス自身が気持ちを優しくする甘いお菓子のようなものだということなのかもしれない。

 もっとも、それならみんながもっと優しくしてくれていなければおかしいが。

 

�� …the balls were live hedgehogs, the mallets live flamingoes,…

 

 テニエルの挿絵ではアリスはボール(ハリネズミ)を向かって左から右にはじこうとしている。とすると、ボールをおさえる足が逆なのではないかと思う。

 山形浩生氏の訳ではなぜか「アナグマ」で、イラストもそうなっている。

 ハリネズミとフラミンゴはこの章ではどちらも4章の犬同様、しゃべらない動物として登場するが、ハリネズミは12章のテニエルのイラストによれば裁判で陪審員を務めていて、そのあたりの区別は曖昧だ。

『地下』のキャロルのイラストでは裁判のシーンに犬や豚らしき動物も描かれている。

 

��“How do you Like the Queen?”said the Cat in a low voice.

 “Not at all,”said Alice:“she's so extremely―”Just then she noticed that the Queen was close behind her, listening: so she went on“―likely to win, that it's hardly worth while finishing the game.”

 

 この、アリスがチェシャ猫に女王様の悪口を言い始め、そこで本人がすぐ後ろにいるのに気がついて、あとに続く言葉を変えるところは、アリスは一応、思いもしない嘘は言っていない、というのもポイントだと思う。

 よく読むと、おべっかは言っていない。むしろ皮肉だが、アリスの性格からするとあてつけを言ったわけではなくて、あたりさわりのないところを言ったというか、そういう表現に変えた、というところじゃないだろうか。

 また、チェシャ猫は女王様が聞いているのを知っていてアリスにたずねていると見えるわけで、ディズニーアニメのチェシャ猫のキャラクターは、そのあたりをふくらませたんだろうな、と思った。

 

��“A cat may look at a king,”said Alice.“I've read that in some book, but I don't remember where.”

 “Well, it must be removed,”said the King very decidedly; and he called to the Queen, who was passing at the moment,“My dear! I wish you would have this cat removed!”

 

 訳では変えてしまったが、王様の it must be removed, というセリフは、アリスが A cat may look at a king と本に書かれていたと言ったので、その言葉を本から削除、あるいは本自体を取り除かなければならないと言ったのかと思ったら、女王様に向かって「猫を取り去ってくれ」と頼むおかしさだと思う。

 それにアリスも王様も、ことわざを本当の意味ではなく、字面の意味で捉えている。

 本来は「卑しいものにもそれなりの権利がある」という意味らしいので、チェシャ猫にとってはあまり嬉しい言い回しではなさそうだ。

 王様は単にニヤニヤ笑いながら見られるのが嫌だっただけで、相手の身分は特に関係ないし、ことわざの方も猫そのものの権利について言ったものではないので、アリスは状況にそぐわないことわざを持ち出したことになる。

 これが次章での公爵夫人の不適切なことわざ――教訓のオンパレードにつながっていくわけだ。

 

�� the only diffculty was, that her flamingo was gone across to the other side of the garden, where Alice could see it trying in helpless sort of way to fly up into a tree.

 

 フラミンゴはどうして木に上がれないのかなと思ったが、きっと飛び上がれないんじゃなくて、水かきのついた足なので、枝をつかめずに落ちてしまうんだろう。

 

�� The moment Alce appeared, she was appealed to by all three to settle the question, and they repeated their arguments to her, though, as they all spoke at once, she found it very hard to make out exactly what they said.

 The executioner's argument was, […]

 The King's argument was […]

 The Queen's argument was […]

 Alice could think of nothing else to say but“It belongs to the Duchess: you'd better ask her about it.”

 

 この、三人の言い分のところは、アリスには何を言ったのかちゃんと聞き分けるのがとても難しかった――つまりちゃんとは聞き分けられなかったので、代わってキャロルがそれぞれの言い分を読者に説明し、アリスの方はどうやら猫のことでもめているらしいということで侯爵夫人に丸投げした、というようにとった。

 難しかったがなんとかちゃんと聞き分けられたと解する訳がほとんどで(三人が何度か主張を繰り返したという解釈か)、そうでない訳は、

 

 高杉一郎「はっきりとききとることもろくにできません」

 楠悦郎「アリスには三人がいっていることがよくわかりませんでした」

 中村妙子「何をいっているのか、よくわかりませんでした」

 石井睦美「三人がなにを言っているのか聞き取れやしなかった」

 杉田七重「何を言っているのかよく分からない」

 

ぐらいだが、どうなんだろう。

 

 

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