CHAPTER 4. THE RABBIT SENDS IN A LITTLE BILL

 

�� As she said this, she came upon a neat little house, on the door of which was a bright brass plate with the name“W.RABBIT”engraved upon it.

 

 W.RABBIT は素直にとれば WHITE RABBIT で、属性+とりあえずの呼び名である「白ウサギ」が、そのまま正式な名前として表札に使われ、頭文字表示になっているというおかしさがある。

 でも、W だから、ひょっとしたら William などかもしれないと思える面白さもあるんじゃないかと思った。

 なにしろこのあと出てくる使用人らしき登場人物(たぶん、人ではないが)にはパット、トカゲにもビルという名前があるのだ。

 トカゲのビルという名前は Sends in a Little Bill で請求書を送りつけると読めるジョークのために付けた名前だと思うが、Pat は Patrick の愛称でアイルランド人に多く、Bill は William の愛称でイングランド人に多いそうだ。と言うことは、ひょっとしたらウサギが Bill で、トカゲが Little Bill なんだろうか?

 でも、みんな白ウサギの前でトカゲのことを普通に Bill と呼んでいるので違うかな。

 

�� By this time she had found her way into a tidy little room with a table in the window, and on it (as she had hoped) a fan and two or three pairs of tiny white kid gloves:…

 

 アリスはウサギの手袋を自分の手にはめられるぐらい小さくなってから、さらにもう少し小さくなっていたはずで、3章のテニエルのイラストではネズミよりちょっと大きいぐらいに描かれている。

 それからすればウサギの手袋を tiny と表現するのはちょっとおかしい。アリスにとってはむしろ大きすぎるはずだからだ。

 ただ、キャロルの『地下』のイラストではアリスの大きさに統一感がなく、ネズミに出会ったシーンはネズミ大、ウサギに再会したシーンはウサギ大に描かれている。まるで知らぬ間に少しずつ大きくなっているかのようだ。

 このあたりの整合性のなさは、単に話の都合と言うか気にしていないのか、うっかりなのか、夢であることを示しているものなのか、どうだろう。

 

�� …and she tried the effect of lying down with one elbow against the door, and the other arm curled round her head. Still she went on growing, and, as a last resource, she put one arm out of the window, and one foot up the chimney,…

 

 体を丸めるのが一番スペースをとらないはずなので、このあたり本当はちょっとおかしい。

 そんなこともあってか the other arm curled round her head というのが首から頭までどのあたりにどう腕を回したのか、翻訳者によってイメージが違うようだ。

 体を小さくすると言うより、迫る天井から身を守って隠れようとするようなポーズなのかなと思う。

 そのあと暖炉の煙突に足をつっこむというのも、大きくなったアリスの足では本当は無理だろう。

 あくまでも話を面白くするためのものと言える。(��に続く)

 

�� Alice knew it was the Rabbit coming to look for her, and she trembled till she shook the house, quite forgetting that she was now about a thousand times as large as the Rabbit, and no reason to be afraid of it. 

 

 自分を探しに来たウサギに怯えるところは、大きくなったから怖がる必要がないというより、それに加えてもともと人違いなので、本来的にも怖がる理由がないということではないかと思ったが、メアリ・アンに間違えられた時、アリスの方が小さかったのなら(本当はそのはず)大きなウサギが怖かったのかもしれない。

 アーサー・ラッカム(Arthur Rackham)の挿絵ではアリスよりいくぶん大きく描かれていて、確かにちょっと怖い。

 

�ァ�That you wo'n't”thought Alice, and, after waiting till she fancied she heard the Rabbit just under the window, she suddenly spread out her hand, and made a snatch in the air. She did not get hold of anything, but she heard a little shriek and a fall, and a crash of broken glass, from which she concluded that it was just possible it had fallen into a cucumber-frame, or something of the sort.

 

 ウサギが窓まで来たところではなく、窓の下まで来たところでおどかしているから、ウサギは落ちたのではなく、ひっくり返ったのではないかと思う。

「落ちる音」というのも変だし(マンガやアニメなら「ヒュー」とか「スー」とかいう擬音がつくかもしれないが)、ころんでドシンと温床にぶつり、そのままガラスを破って温床の中に倒れこんだということではないか。

 テニエルや『地下』のキャロルのイラストからもそう見える。

 

「温床」というと「悪の温床」なんていう言い回しでしか知らなかったので、本来の実物についてはこの作品を読んではじめて知った。

 

�� Next came an angry voice―the Rabbit's―“Pat! Pat! Where are you?”And then a voice she had never heard before,“Sure then I'm here! Digging for apples, yer honour!”

 

 フランス語でもドイツ語でもジャガイモのことを「大地のりんご」(Pomme de Terre / Erdapfel)と言うそうだ。

 Pat はアイルランド系の名前ということだが、『水の子』6章に、アイルランド人はジャガイモばかり食べていると書かれている。芹生氏の訳注に寄れば、当時実情としてそういうことがあったそうだ。

 

�А�An arm, you goose! Who ever saw one that size? Why, it fills the whole window!”

 

 アリスを大きくした飲み物はそもそもウサギの部屋にあったのに、あんな大きさの腕があるものかとウサギが言うのはなぜだろう。しかもあとの展開からすると小さくする方法は知っていたようだ。それならはじめからそうすればいいようなものだが、うっかりしていたんだろうか。

 もしかすると2章でアリスを小さくした扇子の力もウサギには働かなかったようだから、体の大きさを変える力は「よそ者」にしか働かないのかもしれない。

 

�─�Where's the other ladder?―Why, I hadn't to bring but one. Bill's got the other―Bill! Fetch it here, lad!―Here, put 'em up at this corner―No, tie 'em together first―they don't reach half high enough yet―Oh, they'll do well enough. Don't be particular―Here, Bill! Catch hold of this rope―Will the roof bear?―Mind that loose slate―Oh, it's coming down! Heads below!”(a loud crash)―“Now, who did that?―It was Bill, I fancy―Who's to go down the dhimney?―Nay, I sha'n't! You do it!―That I wo'n't, then!―Bill's got to go down―Here, Bill! The master says you've got to go down the chimney!”

 

 この、アリスの耳に聞こえてくる雑多なセリフだけのところは、何名のセリフなのか、ウサギやパットが加わっているのかどうかはっきりしない。

 口調や内容などから読み分けることは可能だろうか。

 The master は白ウサギのことかと思うが、Bill's got to go down が白ウサギのセリフかどうかは、どうなんだろう。

 いくつかのオーディオ・ブックでは一連のセリフに白ウサギが加わってはいないようだったが、単にはっきり分からないからそうしているだけかもしれない。

 映像作品では反対に白ウサギが指示を出しているように描かれていることが多い。

 本文には a good many voices とあるし、統一も取れていないようだし、白ウサギの声なら(the Rabbit's voice)と書きそうな気もするので、白ウサギはいないと思ってもいいんじゃないかと思うが、そうすると、うるさいことを言えば The Rabbit Sends in a Little Bill ではないことになる。

 そんなこともあってか、大久保ゆう氏は Bill's got to go down / Where's the other ladder? / Who's to go down the chimney? の三つのセリフを白ウサギのものとして訳し分けている。

 また、The master が白ウサギのことなら、白ウサギは地主で、集まった連中は小作か何かだろうか。

 

�� She drew her foot as far down the chimney as she could, and waited till she heard a little animal (she couldn't guess of what sort it was) scratching and scrambling about in the chimney close above her: then, saying to herself“This is Bill”, she gave one sharp kick, and waited to see what would happen next.

 

 部屋いっぱいになって足を暖炉につっこんでいるアリスの体勢はちょっと想像しにくく、テニエルや『地下』のキャロルのイラストでも暖炉に足をつっこんでいるようには見えないのがもどかしい。

 実写映画ではそれほど部屋いっぱいにはなっていなかったりするし、足に関しては足先だけ暖炉に入れていたりするが、「できるだけ煙突の下の方まで足を引き寄せ」てから蹴とばすとあるので、ちょっとイメージが違う気がする。

 実際は(��に書いたように本当は無理だと思うが)こんな感じの体勢になるのではないだろうか。

 かなりあられもない恰好ではある。

 そうするとアリスはずっとこんな辛そうな体勢であれこれ考えたり、二人ごっこでぺちゃくちゃしゃべったりしていたことになるが。

 ディズニーアニメでは絵ににしづらいと思ったのか、足は家の外まで伸び、ビルを蹴とばすのではなく、くしゃみで吹き飛ばすように変えている。

 不可抗力になるわけで、アリスに暴力をふるわせない配慮でもあるのだろう。

 

��“…all I know is, something comes at me like a jack-in-the-box, and up I goes like a sky-rocket!”

 

 sky-rocket は「のろし(の矢)」かな、と思うが、「のろし」と言うと、煙がモクモクという絵が思い浮かぶのでやめた。

 

�� The poor little Lizard, Bill, was in the middle, being held up by two guinea-pigs, who were giving it something out of a bottle.

 

 ビルは11章で陪審員として再登場するが、その法廷で suppress されるモルモットは、この二匹なのかな。

 

�� An enormous puppy was looking down at her with large round eyes, and feebly stretching out one paw, trying to touch her.

 

 この子犬はアリスが小さくなっているので怪物的に見えるが、実はフシギの国で一番、と言うか唯一まともな、普通の振る舞いを見せる動物だ。本来は言葉を話したりする方が特殊なわけで、6章ではフシギの国における mad ではないものとして、チェシャ猫の三段論法(もどき)に利用される。

 チェシャ猫の登場しない『地下』にも出てくるので、はじめからそうするつもりだったわけではなさそうだが、うまく利用したものだ。

 

�� …then the puppy began a series of short charges at the stick, running a very little way forwards each time and a long way back, and barking hoarsely all the while,…

 

 誘い出そうとするような行動なのかなあ。だんだん飽きるのかも。

 犬の barking は普通のことだが、人間だと「頭がおかしい」という意味になるのだそうな。

 barking hoarsely はこんな感じかな。

 

 

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