CHAPTER 3. A CAUCUS-RACE AND A LONG TALE

 

1. THEY were indeed a queer-looking party that assembled on the bank … there was no more to be said.

 

 以前、3章は始まった時点ですでにアリスとオウムの不毛なやりとりが続いていて、そこまでのことを振り返って書いているのかと思っていたが、違うようだ。

 

2.“…William the Conqueror, whose cause was favoured by the pope, was soon submitted to by the English, […] Edwin and Morcar, the earls of Mercia and Northumbria, declared for him; and even Stigand, the patriotic archbishop of Cantaerbury, found it advisable […] to go with Edgar Atheling to meet William and offer him the crown.…”

 

 ネズミが語るこの the driest thing は、実際にある本 A short course of history の一節で、「Google ブックス」で公開されていると教えていただいた(143ページからの部分)。

 

 現在、教会では「法王」ではなく「教皇」という呼称を採用しているということ、Stigand は大主教ではなく大司教であるということなので訂正した。

 

「モルケル」か「モルカル」か「モルカール」か「モーカー」か、「マーシア」か「マーシャ」か、「スタイガンド」か「スティガンド」か、「エセリング」か「アセリング」か「アシリング」か、このあたりは英語版のオーディオ・ブックなどで聞こえた音に近いと思ったものにしている。

 

3.“In that case,”said the Dodo solemnly, rising to its feet,“I move that the meeting adjourn, for the immediate adoption of more energetic remedies――”

 “Speak English!”said the Eaglet.“I don't know the meaning of half those long words, and, what's more, I don't believe you do either!”

 

 Charles Kingsley の The Water-Babies, A Fairy Tale for a Land Baby(キングスレイ『水の子―陸の子のためのおとぎばなし』阿部知二訳/チャールズ・キングズリー『水の子どもたち』芹生一訳――以下、キングスレイ『水の子』と表記)第4章に「三音節を超える言葉には軽い税、四音節を超える言葉には重い税、五音節を超える言葉には払いきれないほどの税を課すべし」云々という論文の話が出てくる(このエピソードも含め、『水の子』第4章の後半はナンセンスにあふれている)。

 ドードーの発言では adoption, remedies が三音節、immediate, energetic が四音節のようだ。

 

4.“What is a Caucus-race?”said Alice;…

 

 Caucus-race いろいろ。

「コーカス・レース」岩崎民平、多田幸蔵、生野幸吉、福島正実、北村太郎、蕗沢忠枝、中山知子、まど・みちお、たむら純子、島本薫(「『不思議の国のアリス』で英語を学ぶ」)。

「コーカスレース」楠山正雄(『不思議の國』)、大戸喜一郎(『不思議國めぐり』)、益本青小鳥(重雄)(『繪入全譯 お轉婆アリスの夢』)、菊池寛・芥川龍之介(『アリス物語』)、石川澄子、立原えりか、酒寄進一、楠本君恵。

候補競争(コーカスレース)(西洋鬼ごつこ)」丸山英観(薄夜)(『愛ちやんの夢物語』)。

「コーカス・レース/カワカス・レース(アリスの聞き違い)」中山知子。

「コーカス競争」吉田健一、高山宏、柳瀬尚紀、原昌、宗像あゆむ、石井睦美、安井泉。

「コーカスきょうそう」光吉夏弥。

「コーカスかけっこ」すえまつひみこ(末松氷海子)(『アリスのふしぎな夢』)。

コーカス(こおかす)かけっこ」たかやまひろし(高山宏)(『おとぎの“アリス”』)。

「コーカサス競争(きょうそう)」足沢良子

「周回競争/集会競争(アリスの聞き違い)」芦田川祐子。

「党大会レース」河合祥一郎。

「党員集会競争」琴葉かいら(『不思議の国のアリス ビジュアルファンBOOK』)。

「政党集会レース」仲薫(ウェブサイト)。

「議員総会(そうかい)レース」佐野真奈美。

「政治家レース」大西小生(ウェブサイト)。

「出来・レース」木信一(「『不思議の国のアリス』上方落語風」ウェブサイト)。

派閥(はばつ)レース」小笠原宏子。

「派閥競争」星隆弘(『アリス失踪!』Twitter)。

「乾燥レース」矢崎節夫。

「カンソウ・レース」さくまゆみこ。

「乾かしレース」三沢洋。

「かわかし競争」高杉一郎。

「かわかし競争(きょうそう)」山主敏子。

「かわかす競争」楠田誓子。

「カワカスきょうそう」石井睦美(『ふしぎの国のアリス(10歳までに読みたい世界名作)』)。

「めためた競争」高橋康也・迪。

「がやがや競争」芹生一。

「からまわりレース」杉田七重。

「からまわり競争」楠悦郎。

「えらいひと競争」津原泰水(『ルピナス探偵団の憂愁』「犬には歓迎されざる」)。

「でたらめ競争」村山由佳。

「メラタデ競争」金原瑞人(『こども部屋のアリス』)。

「ヤタラメきょうそう」高橋康也・迪(『子供部屋のアリス』)。

「ドサクサ・レース」中村妙子。

「どたばた競争(きょうそう)」飯島淳秀、和田慎二(「キャベツ畑でつまずいて」)。

「どやどやきょうそう」横谷輝。

「ドヤドヤ競争」田中俊夫。

ドヤドヤ(どやどや)きょうそう/ぐるぐる まわる きょうそう」平田昭吾。

グルグル(ぐるぐる)きょうそう」照沼まりえ。

「わいわいきょうそう」こしばはじめ(小柴一)(『よみきかせ ふしぎのくにのアリス』)。

「ドードー競争」脇朋子、大谷美恵、木下さくら。

「ドードー巡り競争」ポポロ工作室(西の『不思議の国のアリス』東の『かぐや姫』(Kindle))。

「ドードーめぐりレース」田中亜希子(『小学館世界J文学館』)。

「ドードー巡り」久美里美。

「ドードーめぐり」大久保ゆう(『アリスはふしぎの国で』青空文庫)。

「どーどーめぐり」おおくぼゆう(大久保ゆう)(『えほんのアリス』青空文庫)。

「堂々めぐり」矢川澄子。

「けんけんがくがくドードーめぐり競争」うえさきひろこ。

「思い思いドウドウめぐり走」藤井恵子(監訳)(デジタルBOOK)。

「めちゃくちゃかけっこ」山形浩生。

「しっちゃかめっちゃかレース」池本尚美(『ページズ書店の仲間たち1 ティリー・ページズと魔法の図書館』アナ・ジェームス著)。

「かけつこ/かけくら」鷲尾知治(編)(『まりちやんの夢の國旅行 ふしぎなお庭』)。

駈比(かけつこ)」丹羽五郎(編)(『長編お伽噺 子供の夢』)。

「はんたいきょうそう」立原えりか(「いもうとのためのアリス」『フラワーブックス16 ふしぎの国のアリス』)。

 以上、確認できたものだけ。

 

 ウィキペディアの「不思議の国のアリス」注釈9『水の子』第7章に「コーカス・レース」という言葉が出てくると書いてあるが、実際に書かれているのは great caucus で、hoodie-crows(「ズキンガラス」カラスの一種で、頭と羽が黒く胴体が白っぽいので頭巾を着けているように見える。阿部知二訳では「カンムリガラス」、芹生一訳では「ハイイロガラス」)が年に一度開く会議。と言っても自慢話をして私刑を行うだけ。

 

5. …“Everybody has won, and all must have prizes.”

 “But who is to give the prizes?”quite a chorus of voices asked.

 “Why, she, of course,”said the Dodo, pointing to Alice with one finger;…

 

「全員が勝った」と言うとナンセンスだが、体を乾かすことに「成功した」ということならその通り。

 

 prizes に関して、価値ある素晴らしきものはアリスのような少女からもたらされるのだ、というようなことを書かれていたのはどなただったか。

 

6.“Mine is a long and a sad tale!”said the Mouse, turning to Alice, and sighing.

 

 ここの訳は、

 河合祥一郎「では、いまだに()を引いているいざこざがどう起こったのか、お話をしよう。長くて悲しいよ、こいつは!」

 島本薫「おいらの因縁話ときたら、長い尾をひく悲しいものさ!」

のアイデアを借りテイル。

 

7.“Fury said to a mouse,

  That he met in the house,

 ‘Let us both go to law: I will prosecute you.…

 

 ネズミの話は詩の形になっているが、ネズミは詩を朗読しているのではなく、話をしているシーンなので、形は詩で口調は語り口調、という訳がいいのではないかと思っていた。でも、『鏡』の(削除された)エピソード、「かつらをかぶった〜」にはスズメバチに体験を詩にして暗唱してもらうというシーンもあるし、ネズミも同様にはっきり「詩として」口にしているのかもしれない。

 

8.“You are not attending!”said the Mouse to Alice, severely.“What are you thinking of?”

 “I beg your pardon,”said Alice very humbly:“you had got to the fifth bend, I think?”

 “I had not!”cried the Mouse, sharply and very angrily.

 “A knot!”said Alice, always ready to make herself useful, and looking anxiously about her.“Oh, do let me help to undo it!”

 “I shall do nothing of the sort,”said the Mouse, getting up and walking away.“You insult me by talking such nonsense!”

 

 アリスの発言にネズミが怒るのは、発言の内容がネズミには、「あなたは話を五回もねじ曲げている。だから本来の話に戻すことに私が手を貸しましょう」と言っているように聞こえたからだと解釈したが、誰もそう訳さない、ということは間違っているのだろうか。

 そう捉えた方がすっきりすると思うのだが。

 

9.“And who is Dinah, if I might venture to ask the question?”said the Lory.

 

 聞かない方がいいことを聞いてしまったという含みがある、というのは大西小生氏の考察

 

10.“…I wish you could see her after the birds! Why, she'll eat a little bird as soon as look at it!”

 

 オウムにしてみれば(オウムは小鳥とは言えないかもしれないが、アリス・リドルの姉のロリーナがモデル、と言うことはまだまだ子鳥ではあるので)、見つかったとたんに食べられちゃうから、姿を見ることもできないだろう、と言われたように思えたろう。

 

11. …one old Magpie began wrapping itself up very carefully, remarkingk“I really must be getting home: the night-air doesn't suit my throat!”And a Canary called out in a trembling voice, to its children,“Come away, my dears! It's high time you were all in bed!”

 

 たいていの訳では「羽で身をくるむ」というようになっているが、原文にははっきり「羽で」とは書かれておらず、「本音を隠す」の意がかけられているのではないかと思った。

 

 両名のセリフでは今は夜か夕方みたいだが、あとでお茶会のシーンでは午後6時だと告げられる。嘘を言ったとも取れるし、特に整合性をつけていないだけ、なのかもしれない。

 地の底だから陽は射さない、という理屈もフシギの国にはないようだ。

 

 なんとなくおばあちゃんカササギかな、と思ったが根拠はない。

 オーディオ・ブックでは男性の声である場合もあるし、おじいちゃんで訳している人もいる。

 キャロルはどちらのつもりだったのか、特にどちらとも考えてはいなかったのか、何か根拠になるものがあればいいが。

 

 

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